「デモ隊のかたは前に進んでください」
「ふざけんじゃねーよ! お前らが進めなくしたんじゃねーかっ!!」
「帰れ! 帰れ! 帰れ! 帰れ!」
交差点の手前で運転手を含めた乗員3人全員が逮捕されてしまい、動くに動けなくなったデモ隊先導トラックの前で、いかにも訳も分からず単に動員でかり出されただけという感じの制服警官が、この場の状況を全く読めていないような呑気な声で言ったりしたんもんだから、興奮しきったデモ隊参加者たちはますます神経を逆撫でされ、事態はさらに泥沼化していたという7月5日午後4時10分過ぎなのであった。そうこうするうちにトラックの荷台上には警官たちがどしどしと上がり込み、その周囲を機動隊員たちが着々と取り囲んでいく。
すでにトラックから降りていた私は、戻って再び荷台に取り付こうとした途端、「はい、危ないですから下がって下がって!」と、またまた後ろから機動隊員に背中のディパックを引っ張られた。
「誰が危ないんだよ」と思わず言った。「そもそも目の前にいるのってお前らの仲間ばっかりだろうが!!」
ついでに小突いてやろうかと思ったが、それは思いとどまった(ことが結果的によかったと後で判明する)。しかしこうなったらもう、見晴らしのいい広い交差点なんだから、いっそのこと「市街戦」に持ち込んじゃったほうがいいのではないかとも個人的には思ったくらいだ。幸い人数的には警官よりもデモ隊のほうが多いし、しかもガイジンの強そうなのも一通り揃っている。
しかしながら、スタート当初からトラック周辺の一番騒がしい集団をしっかりフォローしてきたデモ主催者側のスタッフたちは、実に敬意を表すべきことに、こうした混乱状況下でも極めて冷静に対処していた。警察側に対して激しく詰め寄りながらも決して感情的にはならず、しばし交渉しては振り返って「はい、ここはまず押さえて押さえて!」「ひとまず前へ動いて!」といった感じで、懸命に状況の沈静化に努めていた。
その甲斐あってか、騒ぎがおっ始まってから十数分後、デモ隊は元通り派手に楽器を鳴らしながら、すぐ目の前に迫っていたゴールの中島公園に向かって進みだした。
もちろん、トラックはその場に停まったままだ。ふと見ると、運転席のすぐ下の路上には粉々に砕かれた窓ガラスの青い破片が散らばっていた。つまり警察はガラスをぶち破って運転席に突入したのだ。
中島公園の入り口も、青いヘルメットと白銀の盾の列で固められていた。が、公園の中まではさすがに彼らも入ってこない。
全身を黒いコスチュームで目元まで覆った参加者は、デモの間ずっと手にした「ピーポくん」(警視庁公式認定マスコット)人形を機動隊や警察の前でぶら下げてからかっていたが、公園に入るや、とうとうそれを足元において蹴りだした。転がってきたピーポくんを、参加者たちがサッカーのパスまわしよろしく蹴りまわす。一度だけ私の足元にも転がってきたので、思いっきり先まで蹴り飛ばしてやろうとしたが、カメラで撮影しながらの体制では上手くいかずにあえなく空振り。こういう時は取材者って不利だなと思う。
終着点の広場まで到達するや、とうとうピーポくんの「公開リンチ」が始まった。蹴るだけでなく、踏んづけたり水をぶっ掛ける者も出るなど、警察への怒りをまさに文字通り「踏んだり蹴ったり」な行為でピーポくんにぶつけていたのであった。もっとも、さすがに最後は一人の女性が「かわいそうだからやめましょうよ」と、たまりかねたような表情で諌めたりもしていたけど。
ようやく落ち着いたところで、デモ主催者がハンドマイクで説明を始める。
この段階で判明していた逮捕者はDJと運転手の2名。しかも運転手に関しては一応「公務執行妨害」という理由は告げられたものの、前述の通りDJについては何ら理由の提示はなかったという。いずれにせよ極めて不当な逮捕であり、主催者側はこれから札幌中央署まで抗議にいくつもりだ――といった説明がほぼ終わったところでさらに新たな情報が入り、実は逮捕者はもう1人のDJを含めた3名にのぼっていたことが知らされる
。最初の1人の事件後に「なぜ逮捕されたのかわからない」と荷台から私に語ってくれた彼も、やはり捕まっていたのだ。
どうもこのぶんじゃ、実際にはあと何人か逮捕されてるかわかんないな・・・・・・と思いながら主催者や主要なデモ参加者たちとともに向かった札幌中央署の玄関前まで向かったところ、案の定、やはりもう一人の逮捕者がいたことが判明した。しかも、それは私とはある意味で同業の「記者」だった。(岩本太郎)
(つづく)



